坊さんブログ、水茎の跡。

小さな寺院の住職です。お寺の日常や仏教エッセーを書いてます。普濟寺(普済寺/栃木県さくら市)住職。

「生」のお話①~新たな命の誕生、苦しみをくぐり抜けて~「法の水茎」34

可愛らしい花も元気いっぱいです。

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ニリンソウ

お地蔵様の足元に、小さなニリンソウが咲き誇っていました。


今回の文章は、四苦八苦の「生苦」をテーマに、なぜ始めに「生」(生まれること)があるのかについて書いてみたものです。

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「法の水茎」34(2015年4月記)




  春眠不覚暁
  処処聞啼鳥
  夜来風雨声
  花落知多少
    (孟浩然「春暁」)
(春の眠りは心地良く、夜が明けたのも気づかない。耳を澄ませばあちこちで、鳥の囀り耳にする。夕べの風でどれほどの、花はハラハラ散ったのか)

 「春眠暁を覚えず」……この時期にぴったりの漢詩です。ぼんやりと空を眺めながら、ふと口ずさんだ方もおられるでしょう。口語訳は七五調にしてみましたがいかがでしょうか。

 4月に入り、うららかな日ざしが大地に降り注いでいます。ヒバリやメジロなどの小鳥の声は、いつしか子守歌となって、ウトウトと眠気を誘い出します。

 4月は「卯月」とも呼ばれます。これは「卯の花」や「空木」が咲く月からとも、また稲の苗を植える月(植月)から名付けられたとも言われています。私たちは今、麗しい春の息吹に包まれています。

  久方の 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ
                  (『古今集』紀友則)
(日の光が穏やかな春の日に、どうして桜の花は落ち着くこともなく散るのだろう)

 いつまでも心安らかな日々が続いてほしいと願いながらも、冒頭の漢詩のように、春の嵐が花びらを連れ出します。時節は止まることなく、初夏へと足早に向かっているのでしょう。

 季節の変わり目に行われるお寺の行事に「花祭り」があります。これは、旧暦4月8日(今年の新暦では5月25日)のお釈迦様の誕生日をお祝いするお祭りです。高尾山薬王院においても、毎年4月8日には仏舎利塔において「花祭り」の法会が営まれます。

 お釈迦様の誕生は、今から約2500年も前に遡ります。摩耶夫人という女性が昼寝をしていた時のこと。6つの牙を持つ白い象(白象)が胎内に入る夢を見ました。夢から覚めると、自然に身ごもっていることを知りました。

 4月8日に至り、摩耶夫人は出産のための里帰りの途中で、ルンビニー(ネパールの南部)の園に立ち寄ります。そこで、美しい花を手折ろうと枝に手を伸ばした時、夫人の右脇からお釈迦様はお生まれになったのです。

 するとすぐに立ち上がって7歩踏み出し、右手で高く天を指し、左手で深く地を指して、言葉を発しました。

  天上天下 唯我独尊
(この世界に私よりも尊いものはない)

 この時、天地は揺れ動き、妙なる音色とともに天から多くの神々が降りてきました。お釈迦様の頭上には香湯(良い香りの水)が注ぎ、小さなお身体は金色に照り輝いていました。
                (『仏本行集経』など)

 お釈迦様の「天上天下 唯我独尊」という言葉は、この世にある苦しみから、人々を普く済おうとする強い思いから言い放たれたものです。「四苦八苦」という仏教語があるように、この世は、自分の思うようにならないこと(苦)で満ちあふれているのです。

 ところで「四苦八苦」の「四苦」とは、「生・老・病・死」の4つを言いますが、なぜ始めに「生」(生まれること)が入っているのでしょう。新たな命の誕生は喜ばしいはずなのに、何か不思議な気がします。

 この「生苦」については、鎌倉時代の説話集に、次のように記されています。

 人は、母親のお腹の中で300日、あるいは260日も包まれているけれど、いざ生まれる時には、例えば生きた牛の皮を剥ぎ取って、棘の道を通るような苦しみがある。

 また柔らかな蒲団で受け取ったとしても、赤ちゃんにとってみれば百千の剣で切り開かれるような痛みがあるのだ。だから赤ちゃんの初声は「苦かな、苦かな」と聞こえるのだよ。
                (『宝物集』)

 他にも「生苦」については、生まれる時には冷たい風が身に触れて、それは地獄と同じような苦しみであるからとも言われます(頼瑜『秘蔵宝鑰勘注』)。

 こうした話を読みながら、自分はどうだったのかと考えますが、もちろん思い出すことなどできません。ただ、生まれたことによって喜びとともに苦しみも経験し、それを乗り越えることによって成長できたようにも思います。

 人間はもちろん、全て命あるものは、様々な苦しみをくぐり抜けてきたと言えるのかもしれません。

  生老病死苦 以漸悉令滅
     (『法華経』観世音菩薩普門品)
(生老病死の苦しみも、すっかり消滅させる)


 季節の移り変わりを観じ、ただお経を一心に唱えます。


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最後までお読みくださりありがとうございました。